減災伝承AI:災害の記憶を、次の世代へ

その土地には、昔の災害の記憶が残っています。「ここまで波が来た」「あの坂を上れば助かる」。お年寄りが語り継いできた話や、古い書物に書き留められた記録です。

けれど、語り手は少なくなり、本は読まれなくなります。記憶は静かに失われていきます。

減災伝承AIは、その記憶をAIに学ばせて、いまを生きる人が使える形に変える取り組みです。静岡大学の民俗学・社会学の先生方と、中央大学の私たち情報学のチームが、2024年から一緒に進めています。

何をしているのか

民俗学の先生が足で集めた伝承や資料——100件以上あります——と、町が保管する資料をAIに学習させます。すると、こんなことができるようになります。

  • その土地に伝わる災害の言い伝えを、要約して読める形で示す
  • いま立っている場所から、安全な避難経路を提案する

スマートフォンのカメラ越しの風景に、その場所の津波記録が重ねて表示されている画面

試作の一つは、スマートフォンのカメラ越しに、いま見ている風景へ過去の記録を重ねます。上の画面は静岡県西伊豆町の仁科です。示されている「正円・仁科小学校下」には、1854年の安政東海地震による津波が T.P4.0m ——およそ4メートルの高さまで達したと伝えられています。1605年と1854年を切り替えて、同じ場所に別の時代の記録を重ねることもできます。

いま立っているこの道が、かつてどうなったのか。数字を紙で読むのと、目の前の風景の上で見るのとでは、届き方がまるで違います。画面の下には「最寄り避難先」への導線も置いてあります。

(この試作版は gensai.denshou.ai で限定公開しています。ご覧になりたい方はお問い合わせください。)

2025年11月7日には、静岡県西伊豆町田子の交流拠点で、住民の方に試作版を使っていただく体験会を開きました。「使いやすいか」だけでなく「示された情報を信頼できるか」までアンケートでうかがい、改良につなげています。

技術としては、いわゆる生成AIに土地固有の資料を読ませて答えさせる仕組みです。ただ、この研究の難しさは技術だけにありません。言い伝えは、そのまま正解として扱ってよいものではないからです。誇張もあれば、地形が変わって当てはまらなくなったものもあります。何を学ばせ、何を学ばせないか。それを民俗学と社会学の先生方の監修のもとで見極めていく——そこが、情報学の研究室だけでは決してできない部分です。

集めた伝承を、生成AIとゲームエンジンでクイズに仕立てて学べるようにする試みも並行して進めています。詳しくはスマートエデュケーションをご覧ください。

学生は何をしているのか

このテーマの一番の特徴は、教室の外に出ることです。

2023年度は静岡でのワークショップに学生も参加しました。2024年度には伊豆半島ジオパーク学術研究発表会の会場である修善寺へ、3年生がほぼ全員で行きました。そして2025年度は、沖縄県石垣市・竹富町へ。

石垣島の星空の下に並ぶ松崎ゼミの学生たち

石垣島と竹富島を選んだのは、条件がまるで違うからです。災害の頻度が高く、避難場所は限られ、島の地理は本土の常識が通じません。石垣市立図書館で古い災害記録や行政広報を読み、竹富島ゆがふ館では展示や島のインフラについて話をうかがい、ハザードマップを片手に避難経路を自分の足で歩きました。

そして2026年2月には、3年生が静岡県の伊豆市・下田市へ向かいました。狩野川台風と安政東海地震の慰霊碑を実際に見て、地元の方から当時のお話を伺い、伊豆半島ジオパークミュージアム「ジオリア」で半島の成り立ちを学びました。静岡県の地域局にも伺い、今後の協力についてご相談しています。**碑に刻まれた文字を、その場所に立って読む。**データとして受け取るのとは、伝わり方がまるで違います。

竹富島の集落。石垣とサンゴの道の先に小学校がある

行き先を決め、日程を組み、現地で誰に何を聞くかを考える。そこまで含めて学生が主体になって進めています。

情報の仕組みを学ぶ意味は、こういう場面ではっきりします。地図データも、言語モデルも、アンケートの集計も、目の前の人の役に立つかどうかで測られる。この経験は、卒業後にどんな仕事に就いても効いてくるはずです。

メディア掲載

2025年11月の西伊豆町での体験会は、多くの報道機関に取り上げていただきました。

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